歯科コラム喫煙と歯周病

投稿日: 2024.05.20 | 更新日: 2024.10.31

喫煙は歯周病の大きな要因の一つ

歯は人生を左右する大切な器官です。
しっかりと噛むことができれば、栄養を十分に取り込め、健やかな毎日を送ることが可能に。
しかし、歯を蝕む恐ろしい病気が存在します。
それが「歯周病」です。

歯肉に炎症が起こり、最悪の場合は、歯が抜けてしまう可能性さえあるのです。
そして、歯周病のリスクを高める大きな要因の一つが「喫煙」なのです。
本日は、喫煙と歯周病の深い関係について詳しくご説明し、禁煙による歯周病予防の重要性をお伝えしたいと思います。
現在喫煙をされている方だけでなく、これまで喫煙をされていた方も、ぜひ気をつけていただきたい内容ですので、最後までお付き合いください。

歯周病とは?

歯周病は、歯肉に炎症が起き、やがてはお口の中に歯と歯肉の隙間である「歯周ポケット」ができてしまう病気です。この歯周ポケットには、様々な細菌が住み着きます。
重症化すると、細菌が歯肉を蝕み、さらには歯を支える「歯根膜」や「歯槽骨」までもが溶けていってしまいます。結果として、歯が揺らいでグラグラし、最悪の場合には歯が抜けてしまう可能性もあるのです。

歯が抜けてしまえば、十分な栄養を摂取できなくなり、全身の健康にも深刻な影響が出ます。また、最近の研究で、歯周病は糖尿病や動脈硬化といった全身疾患のリスクも高めることが分かっています。つまり、歯周病は決して単なる「歯の病気」ではないということです。
このように、歯周病は重症化すると非常に深刻な病気なのです。ですので、歯を守るためにもしっかりと予防していく必要があります。

喫煙と歯周病の深い関係

喫煙が歯周病のリスクを高める理由は主に2つあります。

1つ目は、喫煙による歯周組織への直接的な害です。
(歯周組織とは、歯の機能を支持する歯の周囲の組織のこと)

タバコの煙には200種類以上の有害物質が含まれており、それらが歯肉に直接取り込まれることで、様々な悪影響が出ます。
具体的には、有害物質の一つである一酸化炭素が血液中に取り込まれ、歯肉の血行不良を引き起こします。十分な血流が行き渡らなくなると、栄養供給が阻害され、歯肉が弱ってしまいます。

また、タバコの煙に含まれるタールなどの刺激物質により、歯肉の常在細菌のバランスが崩れ、病原性のある細菌が歯肉内に入りやすくなります。
さらに、タバコの熱により歯肉の老化が進行し、治癒力が低下するため、一度歯肉に損傷が起これば、なかなか回復が難しくなるのです。

2つ目は、喫煙による全身の免疫力低下です。
喫煙は、体内で活性酸素種と呼ばれる強い酸化力を持つ物質を発生させ、酸化ストレスを引き起こします。(酸化ストレスとは、体内の活性酸素が自分自身を酸化させようとする力のこと)

このストレスが白血球の機能を抑制したり、抗酸化物質の働きを阻害したりするため、免疫力が低下してしまうのです。免疫力が低下すると、私たちの口腔内に常在する歯周病菌に対する防御機能が働かなくなり、歯周病に罹りやすくなります。実際に統計データを見ても、喫煙者は非喫煙者よりはるかに高い割合で歯周病を発症していることが分かります。

このように、喫煙は歯周病の大きなリスク要因となっています。
喫煙本数が多いほど、また喫煙歴が長ければ長いほど、リスクは高まり重症化しやすくなります。本人が喫煙していないからと言って安心してはいけません。
喫煙者の副流煙を吸うことは、喫煙しているのと同じくらいのリスクを背負っていると認識してほしいです。

喫煙は歯周病の原因にもなります。また歯の変色・根面う蝕・歯の喪失にも関係しています。

引用元:喫煙によるその他の健康影響

喫煙

禁煙による歯周病リスク軽減

一方で、喫煙者が禁煙を始めれば、時間の経過とともに歯周病のリスクは確実に下がっていきます。
なぜなら、有害物質への曝露がなくなり、酸化ストレスが解消されることで、徐々に歯肉の健康状態と免疫機能が改善されていくからです。

禁煙から経過年数とリスク軽減の関係

・禁煙後5年経過 → 非喫煙者の1.7倍のリスク
・禁煙後10年経過 → ほぼ非喫煙者と同等のリスク

つまり、禁煙から5年が経過すれば、リスクは非喫煙者の約1.7倍まで下がり、さらに10年を経過すれば、ほぼ非喫煙者と同等のリスクレベルまで改善されるということです。
しかし注意が必要なのは、一度禁煙に成功しても再び喫煙を再開してしまうと、すぐにリスクが高まってしまう点です。

喫煙を再開すれば、有害物質への暴露と酸化ストレスが再び生じるため、一時的に獲得していた健康状態が失われてしまいます。
そのため、望ましいのは一生涯を通して禁煙を継続し、健康的な生活習慣を身につけていくことです。禁煙に加えて、適切な歯磨きや定期的な歯科検診、バランスの良い食生活など、総合的な対策により、確実に歯周病のリスクを下げていくことができるのです。

まだ間に合う!禁煙と定期検診でお口の健康を取り戻そう

喫煙は、有害物質による直接的な歯肉傷害と、全身の免疫力低下を引き起こすことで、歯周病のリスクを高める大きな要因となっています。
一方で、禁煙を始めることで、時間の経過とともにリスクは確実に下がっていき、禁煙から10年もすれば、ほとんど非喫煙者とリスクが変わらなくなるほどだということがお分かりいただけたでしょうか。

歯は人生の大切な営みの源です。
十分に栄養を摂取し、健やかな日々を過ごすためにも、毎日の適切な歯磨き、定期的な歯科検診の受診、抗酸化力の高い食品を意識した食生活など、様々な対策を組み合わせて実践しましょう。

ダメだと思っていても、なかなか始めることが難しい禁煙ですが、歯科医院に来ていただくことで自分の歯の状態を知ることができ、サポートが可能となります。

喫煙の有無に関わらず、一人ひとりが意識を持ち、日々の生活の中で歯周病予防に取り組んでいきましょう。今日からでも遅くはありません。ご自身の健康と、大切な人の健康のために、確かな一歩を踏み出してみてはいかがでしょうか。

監修者情報

大阪市生野区「ふるかわ歯科」
院長 古川 尊寛 からのアドバイス

歯周病は、自覚症状がはっきりとでるまでに進行している場合が多いのです。早期発見が何より重要なのは、そのためです。自分では気づきにくい小さな症状の変化も、歯科医師の目から見れば、歯周病の徴候とわかるものなのです。そのような小さな異変に早めに気づき、適切な処置を施すことで、歯周病の進行を食い止められます。検診で異常が見つかったからと言って、すぐに歯を抜かれるということはありません。むしろ、初期段階で発見できれば、生活習慣の改善といった小さな工夫だけで病状をコントロールできるケースがほとんどなのです。
ですので、歯科検診は1年に1回、せめて2年に1回は必ず受けていただきたいと思います。早期発見・早期対処こそが、健康な歯を残す鍵なのですから。

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